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オーグ営業日誌・訪問記

オーグ営業日誌 第1話「開店前夜」

  • 公開日:
  • 最終更新日:
  • 編集: 喫茶オーグ編集部

カウンターの明かりを少し落とすと、まだ誰もいない店内に、椅子を引く音だけが残りました。喫茶オーグの営業日誌は、検索の答えを急ぐための場所ではありません。自分の場所をひとつ持とうとしている人が、少しだけ息を整えて帰るための読みものです。開店前夜の話から、ゆっくり始めます。

看板の文字を、まだ決められない夜

葉月マスターは、入口の内側に立てかけた小さな黒板を、さっきから何度も眺めていました。そこには「喫茶オーグ」とだけ書かれ、その下の行は空白のままです。何の店なのか、誰を迎えたいのか、どんな時間を過ごして帰ってほしいのか。店名は決まっているのに、最初のお客さんへ向けた一文だけが、どうしても決まらない。

この空白は、サイトを公開する前のトップページによく似ています。ドメインは取った。テーマも入れた。それでも「このサイトは誰のための、何の場所なのか」を一行で言えないと、訪ねてきた人は入口で立ち止まってしまう。マスターはチョークを置いて、まず店の側の気持ちを整えることにしました。

硬い言葉より先に、迎える準備を

カップを磨いていたリコさんが、棚の奥から古いメモ帳を出しました。サーバー、ドメイン、SSL、バックアップ。並んでいるのは硬い言葉ばかりです。それを覗き込んだ蓮くんは、少しだけ肩を落としました。「店を開くのに、こんなに覚えることがあるんですか」。

マスターは笑って、メモ帳の余白に小さな四角をひとつ描きました。「全部を今夜おぼえなくていい。まずは、土地があって、住所があって、店内に棚を置く。その順番だけ分かっていれば、今日は十分です」。難しい単語を暗記することと、店を開ける準備が整うことは、同じではないのです。

杏さんは紙ナプキンの端に、トップページ、プロフィール、問い合わせ、記事一覧、と静かに書き足していきました。派手な言葉はひとつもありません。それでも、初めて来た人が安心するには、凝った内装より先に、入口と席の在りかが分かることのほうが、ずっと大切なのでした。

最初の一行は、宣言でなくていい

文さんは窓際の席で、まだ真っ白なノートを開いたままでいました。最初の記事を書くとき、人はつい、完璧な自己紹介を探してしまいます。立派な経歴も、うまい言い回しも、今夜はまだ要りません。

「こういう人に来てほしい」「この困りごとを、一緒にほどきたい」。そのくらいの、少し不格好な言葉のほうが、かえって店の空気を決めてくれる。文さんはそう言って、最初の一文だけを書きました。長い前置きより、短い正直のほうが、初めての読者には届くのです。

開店前夜に決めた、三つの約束

その夜、喫茶オーグのスタッフは、たった三つだけ約束を決めました。ひとつ、急がせないこと。契約や購入を先に置かず、読む人が自分の条件を見つけるまで待つこと。ふたつ、知ったかぶりをしないこと。まだ試していない画面やサービスを、使ったふりで語らないこと。みっつ、試してから話すこと。サーバーもテーマも作成サービスも、できる限り自分たちで触り、確認した日付を残すこと。

この三つは、立派な理念というより、店を続けるための掃除道具に近いものです。毎日使わなければ、棚には埃がたまります。記事が増え、リンクが増え、広告の話が増えていくときほど、最初の約束に戻れるようにしておく。開店前夜のノートには、そのための余白が必要でした。

今夜の相談席から

もしあなたが今、自分のサイトを作りたいのに何から決めればいいか分からないのなら、最初に選ぶのは道具の名前ではありません。誰に来てほしいか、何を持ち帰ってほしいか、どれくらいの頻度なら店を開けられるか。まずはその三つを、紙に一行ずつ書いてみてください。WordPressか、作成サービスか、無料ブログか――道具の話は、そのあとで十分に間に合います。

喫茶オーグの黒板の、空いていた下の行には、最後にこう書き足されました。「インターネットに、自分の店を持とう。」まだ小さな文字でしたが、その夜の灯りには、それでちょうどよかったのです。